刑務所複合体は、バグダッド西方ほぼ32kmに位置する。特にここで、サダム・ケマリ（特殊保安組織の長）は、サダム・フセイン時代、政治犯の拷問と処刑に個人的に参加していた。当時、刑務所は、総合保安庁アムン・アル‐アムンに従属していた。アメリカ人のデータによれば、1984年、刑務所において、4千人の拘留者が処刑された。少なくとも、122人が、2000年2〜3月 にアブ・グレイブで処刑された。

　刑務所複合体は、280エーカーの面積を占める外、その全周は、24ヶ所の警備塔を有する4kmの保安壁が囲んでいる。刑務所は、5つの各種ブロックから成り、各々は、塔と高い壁により囲まれている。主複合体は、1960年代 に英国の請負業者により建設された。アブ・グレイブのブロックは、政治犯のために、フセインの下で、「公開」と「閉鎖」翼に分離された。閉鎖翼には、シーア派だけが収容された。公開翼には、残り全員が収容された。「閉鎖」翼は、 その拘留者には、いかなる面会と外界との接触も許されなかった（少なくとも、1989年まで）ため、そのような名称を受けた。全ての監獄は、ほぼ4×4mで、各々には、約40人が収容された。

　2002年初め、イラク政府は、アブ・グレイブに4ヶ所、バビル市刑務所に2ヶ所の計6刑務所ブロックの建設のために、約1,220万イラク・ディナールを支出するつもりだと、米国に伝えた。作業が始まり、アメリカ人の到着によって初めて中断した。

■連合軍統制下の刑務所

　アメリカ人の到着後、アブ・グレイブは、再び用途により利用され始め、「Baghdad Central Detention Center (BCCF)」（言い換えれば、バグダッド中央拘留センター）の名称を得た。「Joint Interrogation and Debriefing Center (JIDC)」（統合尋問・聴取センター）の名称で知られる連合軍行政府の刑務所システムに入った。2004年4月から、刑務所には、ほぼ5千人が収容されていた。

　2004年4月末、世界の主要マスコミは、アメリカ軍人がイラク人拘留者に行った倒錯的な拷問の写真を掲載した。これは、在イラク・アメリカ兵を巡る最大のスキャンダルとなった。5月初め、ペンタゴン指導部は、拷問方法のいくつかがジュネーブ協定に一致していないことを認めた。つまり、被尋問者を丸裸にし、72時間睡眠を奪い、腕をねじ上げ、頭に袋を被せることができると書かれた尋問実施に関する通達が、米上院の手に入った。この文書は、在イラク・アメリカ軍司令官リカルド・サンチェス将軍により承認された。

　2004年5月24日、ブッシュは、カルリスルの米陸軍軍事大学（ペンシルバニア州）で演説を行い、米国がアブ・グレイブ刑務所を破壊すると表明した。「新イラクには、人道的で、良く管理された刑務所システムが必要だ」と、ホワイトハウスの主は伝えた。彼の言葉によれば、「独裁制の下では、アブ・グレイブのような刑務所は、死と拷問の象徴だった」。

　「この刑務所自体は、我が国を辱めた若干の兵士の恥ずべき行為の中心地となった」と、米大統領は語った。「アメリカは、最大限厳格な体制の新しい現代的な刑務所の建設に出資している。この刑務所が準備できれば、拘留者は、アブ・グレイブからそこに移送されるだろう」とブッシュは語った。「その後、イラク政府側からの承認後、我々は、アブ・グレイブ刑務所を壊し、このことは、イラクにおける新たな始まりに相応しい象徴となるだろう」と彼は付け加えた。

　2004年5月初め、アブ・グレイブは、第16憲兵旅団と第504軍事情報旅団の責任下に移管された。

■在イラク連合軍刑務所システム

　統合尋問・聴取センター（Joint Interrogation and Debriefing Center − JIDC）とは、捕虜その他の情報源から得られた諜報情報が処理される場所である。通常、センターは、統合司令部（J-2）に従属する。センターは、戦略、戦術及び作戦諜報情報を引き出しつつ、尋問中及び他の情報源から得られた全ての情報を蓄積及び分析している。センターは、捕虜のより詳細な業務も行う。

　JIDCは、捕虜の事後の工作を行う。軍事諜報部が既に工作し、諜報上の観点から利益となると決定された捕虜は、事後の尋問のため、統合尋問・聴取センターに移送される。軍人の外、JIDCは、民間人の拘留者、難民及び服役していない者も尋問することができる。JIDCの活動は、J-2XHOCにより統制される。一方、これは、文民及び／又は軍事指導者、政治官僚、特務機関将校及びテロリストの捜索のために、CIAと行動を調整する。通常、詳細な尋問のために、容疑者は、JIDCのみの管轄下にある特殊ブロックに移送された。

最終更新日：2004/05/31